蓮の歴史と仏法 @
| 日本で最古のハスの出現は、河内国(大阪)であります。『古事記』の赤猪子の段には、 「日下江の 入江の蓮(はちす) 花蓮 身の盛り人 ともしきろかも」という歌があり ます。そして、世界の多くの国でも紀元前の昔から、ハスの花を愛でたという記録が多 く残されております。 中国では黄河の流域でも数多くのハスが咲いていたようです。約三千年前の昔、『詩 経』にもハスを尊ぶ詩がみられ、「君子の花」として今でも多くの人に愛されています。 古代エジプトのピラミッドや王家のミイラからハスの種子がでたり、王家の紋章にハス を使用したことは良く知られています。 インドではハスの歴史は更にさかのぼり、約五千年前のものと思われるハスの女神 像が発見されています。インドの釈尊は、人間生命の哲学的な表現をハス(蓮華)に譬 えました(青色のスイレンの花にも喩えました)。バラモンの根本聖典の一つの『ウパニ シャッド』の中にも「浄化せる者たりとも、未だ浄化せざる者たりとも、聖典を恒に念誦 する者は、罪悪に染まらざること、しかも蓮華の汚れにおけるが如し」と説かれていま す。 釈尊の数々の説法の中には、蓮と水のたとえが頻繁に用いられております。「たとえ ば蓮の葉の上の水滴、或いは蓮華の上の水が汚されないように、それと同じく聖者は 見えたり、学んだり、思索したどんなことについても汚されることがない」「修行完成 者は諸々の偏見を離れて世間を遍歴するのであるから、それらを固執して論争しては ならない。たとえば睡蓮や棘のある蓮が水にも泥にも汚されないように、その聖者は 平安を説く者であって貪ることなく、欲望にも汚されることがない」と、水が蓮の葉に つかいないように、貧欲に染着しないことを説いています。ここに仏教と蓮とのつな がりの原点を見いだすことができます。 後世に大乗仏教が興隆し最も優れた経典として、『妙法蓮華経』 (法華経) が成立し ました。この経典は梵語のSaddharma-pundarika-sutra(サッダルマ=プンダリーカ= スートラ)の訳で、直訳すると、「白蓮のごとく正しい教え」ということになります。これ が中国(後秦)の鳩摩羅什(344〜413年)によって『妙法蓮華経』と訳されたことは周知 の通りです。 日本全国には蓮華にちなんだ地名が、数多くあります。 大蓮(おおはす:大阪府東大阪市)、蓮池町(京都・滋賀)、蓮原(はすはら:鳥取)、蓮台 野(れんだいの:京都)、蓮(はちす:三重)、蓮見町(三重)、蓮見(はすみ:鳥取)、蓮池(は すいけ:神戸・三重・石川・岐阜・香川・高知・佐賀)、蓮川(はすかわ:三重・青森)、蓮沼(は すぬま:東京都大田区・茨城・埼玉・富山)、蓮沼村(千葉)、蓮田(はすた:埼玉・北九州)、 蓮太郎温泉(はすたろうおんせん:宮崎)、蓮華温泉(れんげおんせん:新潟)、蓮沼新田 (はすぬましんでん:埼玉)、蓮根(はすね:東京都板橋区)などです。 この中でも珍しいのは、千葉県の「千葉」ですが、この名称の由来の一つに、「千葉 (せんよう)の蓮華」からきているという説が有力です。「千葉の蓮華」の由来は日蓮大 聖人御生誕の地「千葉県」とあいまって何か不思議な縁を感じます。さらに千葉県とい えば東京大学の検見川農場内の遺跡から、大賀ハスの種子が発掘されました。上記の 地名の多くは古い時代に、湿地帯か湖沼であったと考えられます。 ハスは植物学的に言えば、赤・白の花色を持つ東洋産種と、黄の花色を持つアメリカ 産種の二種があります。化石については、主に北半球が多く、とりわけ欧州やカナダか ら出土しています。中には、一億三千五百万年前(恐竜時代)の化石も発見されている ようです。 日本では福井県からも化石が出土しており、第三氷河期の最後にあたる洪積世のハ スで現在のものと同じと考えられ、ハスの在来説の裏付けとなるとも言われております。 検見川出土の大賀ハスや『古事記』、『風土記』の記録からみても、ハスは古くから在来し ていたのではないかと思われます。もっとも、仏教の伝来以後、中国より宗教的意義か ら僧侶や留学生が日本にもたらしたものも多いようで、現在のハスの起源は多源的で あると思われます。 仏法では「八葉の蓮華」とは、単に八枚の花弁をもつハスのことをいうのではありま せん。ふつうハスの花弁は二十枚から二十五枚といわれ、一重の花もありますし、八重 (やえ)の花もあります。一般的に、八重というのは「八」という実数ではなく、数多くあ るという意味です。 そこで仏法上の「八」という数字の意味は、一義として「たまをひらくと詠むなり」と いうそうです。「たまをひらく」とは一念、一心の生命を無限に開いていく意味といわれ ております。歴史的にみて古代エジプト・バビロニア・アラビアでは、「8」が「太陽」を表す 意義の数字として使われてきたようです。「完全」、「豊饒」、「光輝」などを意味する聖な る数字でもありました。 古代ギリシアにおいては「8」は「all」つまり「すべて」を意味したようです。また、有名 な数学者ピタゴラスの著書の中に、太陽が生み出す「増大」、「知恵」を表す数字として 記されております。他に、「8」を「聖数」とする例で、音楽でもオクターブ≠ェあり「八 音階」ということで、初めの音階が一段と高くなることから「蘇生」を意味するようであ ります。仏法では「八葉の蓮華」とは、単に八枚の花弁をもっているハスという意味でな く、人間の胸間にある心臓が二つの肺臓に包まれ、その形が、ハスに似ていることから、 これを象徴的に「胸間の八葉の蓮華」というものと思います。 <出典>「蓮の研究」創価学園:野鳥・自然環境研究所報告より抜粋 |